光が溢れる眩き世界、そこで、『ボク』が生まれた。ボクはそこで育ち、輝く姿になる筈だった。

 けれど『父』は、ボクを捨てた。

 理由は分からない。聴覚や視覚が整う前に捨てられてしまったから。
 物理法則が支配する物質界(この世界)に、不完全なボクが放り出される。勿論、元から不完全なボクは、この世界に合った姿にはなれなかった。中途半端に肉体が構成され、見るもおぞましい肉塊の姿となる。いっそのこと、影のような幻影へと姿を変え、消滅の時を待った方が良かったのかもしれない。
 そう思うくらいに恐ろしかったのだ。自らを覆い隠そうとする孤独が。
 誰かに縋り付いて助けを請いたくとも、自分が触れたものは次々と壊れていってしまった。高濃度の魔力は、ここの世界の生き物にとって毒だったのだ。
 触れたくとも触れられない。意思を伝えたくとも声が無い。それは途轍もなく恐ろしく、悲しいことであった。

 しかし、

「大丈夫。ここには、僕がいます」

 温かい手が差し伸べられた。
 その手の主の名は、ツェーザル=シュトライヒ。まるで、真っ暗闇の中に落ちた一筋の光のようであった。彼がボクを拒絶せず、受け入れてくれたから、ボクの心は壊れずに済んだ。

 彼は、ずっとボクの傍にいる事を誓ってくれた。ボクの憂いを晴らしてくれると言ってくれた。
 ボクがおぞましい姿をしているにも関わらず、彼は慈悲深い腕でそっと抱いてくれた。
 安堵感と優しさに包まれたボクは、それだけで幸せだった。他には何も要らなかった。

(けれど、ボクはあいつの優しさに甘えていたんだ。……あいつは、本当はとても優しい心の持主だ。人の命を奪う行為に抵抗があったに違いないのに)

 そんなこと、彼は臆面にも出さなかった。常に笑顔の仮面を被り、使命感と優しさのもと、本音を隠し続けて来たのだ。

(……本当は、あいつは月詠棗のように生きたかったんだろうな。誰かが傷付かぬよう、誰かを守ることをしたかったに違いない。……けれど、ボクは)

 彼の凶行を止めることなく、彼が他者から奪うのを黙認していた。それが、彼を修羅の道へと歩ませる結果となってしまったのである。

(だからこそ、ボクは……)

 月詠棗は、あいつの理想の姿に違いない。そんな彼を、あいつが壊してしまったら、それこそ、もう二度と修羅の道から戻って来られないのではないだろうか。
 そうならないためにも、動かなくてはいけない。何がなんでも、彼を止めなくてはいけない。

 そう思った瞬間、横たわっていた体は光となった。






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