一方、棗とツェーザルの戦いは続いていた。蛇腹剣を振るう棗に対して、ツェーザルはそれを弾き飛ばす。ツェーザルは斬馬刀を繰り出すが、棗はコートを翻しながらそれをかわす。
 そんな戦いが、十分以上も続いていた。不屈の精神力を持っているとはいえ、肉体がついて行けなくなってきたのか、ツェーザルの動きに切れが無くなっている。だが、棗もまた、ツェーザルの切っ先こそ回避しているが、刃となった空気までは避けきれなかった。体力を消耗する一方なので、持前の再生力は効果を成さない。

 力も想いもぶつけ合い、互いに摩耗させていく。魂が削られる程の戦いの中、両者の顔には疲労が色濃く表れていた。
 それでも、目に宿る強い光は衰える事は無いが。

「ふっ!」

 空気を吐き出す音と共に、棗が蛇腹剣を繰り出す。だが、ツェーザルが弾く前に、その切っ先はあらぬ方向へと飛んで行ってしまった。

「どうやら、体力の限界のようですね!」

 ツェーザルが斬馬刀を振り上げようとした瞬間、突如、何か強い力に引っ張られる。
 それは、棗の蛇腹剣であった。その名の通り、まるで蛇の如く斬馬刀に巻き付いたかと思うと、

「あっ――!」

 ぐんっという手応えと共に、斬馬刀がツェーザルの手から零れ落ちる。
 ツェーザルは、思わず蛇腹剣が斬馬刀を銜えて遠くへと放ろうとする姿を追ってしまうが、刹那、ずんっと腹部に強い衝撃が走った。まるで鉄の塊が減り込んだかのような感覚に、内臓を吐き出してしまいそうになる。

「……ぐ……かはっ……!」

 ツェーザルは意識を手放しそうになった。そう、その鳩尾には、一気に懐に潜り込んできた棗の拳が減り込んでいたのだ。錘を仕込んでいた執事服もなければ、最初に棗の一撃を受けた時のような体力も残っていない。
 ツェーザルの手は力を失って垂れ下がり、体は棗に寄り掛かるようにして倒れ込む。

「お前は本当に大した男だ……。その強い意志に関しては、俺はお前を認めたい。…………だが、お前の凶行を許すわけには――」

 倒れ込んだツェーザルに語りかける棗の声が、止まった。

「……僕も、棗様の不屈の闘志、感服致しました。本当は、貴方と友達になりたかった」

 ツェーザルはゆっくりと顔を上げる。その手には、斬馬刀が握られていた。
 斬馬刀の刃は赤く染まり、月の下で鈍く輝く。無慈悲な刃で、棗の体を貫きながら。

「…………ば、馬鹿な……。ゼロ距離でコードシステムを発動させたと、言うのか……っ」

「一か八かの、賭けでしたがね……。具現化出来るのは、これが最後でしょう」

 苦笑を浮かべながらも、ツェーザルは棗の体から斬馬刀を引き抜く。鮮血が彼岸花の花びらのように散り、棗は大地に膝をついた。

「う……く……っ」

 貫かれた右胸が熱かった。熱が次々と溢れ、指先から冷たくなっていくのが如実に分かった。ツェーザルを見上げる視界がかすみ、遠くで自分の名を呼ぶような声が聞こえた。

 それでも、ツェーザルが斬馬刀を振り上げる気配だけはハッキリと分かる。

「さようなら、棗様。貴方の来世ではお友達になれますように」

 風を切る音がやけに鮮明に耳に届いた。死の気配が足音を立てて迫ってくる。

 それでも、棗は――。






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