刃の音が響き合い、静寂の夜を戦場に染め上げる。石のタイルに舗装された庭は、今や瓦礫と血に染まって見るも無残な姿になっていた。
 度重なる攻撃で確実に体力が削られている棗と、明らかに満身創痍なのに動きが衰えぬツェーザル。どちらも、一歩も退く事はなかった。
 アマリリスも澪も、棗に加勢する機会をずっと窺っているのだが、両者の気迫が彼らを拒む。
 互いの守るべき者への想いのぶつかり合いに、第三者の介入は許されない。

「棗さぁぁん……」

「ツェーザルの奴、まだこれだけのカードを隠していたとは……。けれど、良いのか、このままで?」

 棗とツェーザルのやり取りは、二人がいるバルコニーまで聞こえていた。ツェーザルが一瞬だけ見せた、悲哀に満ちた表情も届いていた。

「棗とツェーザル、本質は似たようなものなんだろうな。――ツェーザルも、出来る事なら自分を犠牲にして主に手を差しのべたかった。なのに、その選択肢を選びようがなかったんだ」

「この戦い、勿論棗さんに勝って貰いたいけど……、ツェーさんが勝っちゃいけないんだけど……」

 アマリリスは途切れ途切れに言葉を紡いでいたが、遂に俯いてしまった。

「このままじゃ、きっといけない気がする……。どっちも辛い気がするのよぅ!」

 ぶんぶんと首を振るアマリリスに、澪は頷く。

「そうだな。だが、俺達に何が……」

 澪はそう言い掛けると、ふと口を噤んだ。蝋燭の灯りが揺らめく部屋に向かって、耳を傾ける。その様子に、アマリリスも視線をそちらへと巡らせるが、

「あ……!」

 思わず、声をあげてしまった。

 なんと、ツェーザルの主が眠っているベッドの中から、子供の細い腕が伸ばされていたのだ。陶器のような白さを持つ右手は、何かを必死に探すように虚空を掴む。

「…………だ……だめ、だ……」

 それと同時に、金属音に紛れてしまいそうな程の小さな声が聞こえた。アマリリスのものでも澪のものでもない、幼い子供の声である。

「ツ……ツェー…………、だ……め……」

 部屋にいるのはあと一人。
 そう、主が目覚めたのであった。






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