「な、棗さん……その人、人間なのぉ!? 本当はネイティブで、吸血族(ヴァンパイア)だったりとか、そんなオチは無い!?」 声を裏返して悲鳴じみた声を上げるアマリリスに、棗は首を横に振った。 「吸血族に知り合いはいるが、こんな力任せの奴は見た事が無い。それに、あの男の匂いは人間のものだ」 魔獣族の殆どは、その名の通り、獣並の感覚を兼ね備えている。それゆえに、棗は初対面で相手の種族を当てる事が出来るのだ。 ツェーザルが纏うのは人間特有の匂いと、品の良い紅茶と甘味と仄かな香水。そこに巧妙に隠れるように、血の匂いが染みついていた。 ツェーザルは自分の上にある瓦礫を片手で振り落とすと、辛うじて無事な壁を頼りに立ち上がる。足取りがおぼつかないところを見ると、棗の攻撃が効いていないわけでもないようだ。 「そう、僕は正真正銘の人間。魔力も……特殊能力も持っていない……」 二、三度咳き込んだかと思うと、血の塊を吐き出した。それでも、彼は「これは失礼」と頭を下げてハンカチで口を拭う。 この余裕は、一体なんだろうか。 「……俺は手を抜いたつもりはない。お前が本気である以上、本気でなければ止められないと思ったからな。――本来なら、瀕死であるほどの怪我を負っている筈。なのに、何故お前は平気でいられる……ッ」 棗には分からなかった。斬馬刀が現われていないので、コードシステムは発動していない筈だ。つまり、コードシステムの強化支援は受けていないという事である。 「平気ではありません……。でも、僕には御主人様をお守りするという、御主人様の憂いを晴らすという使命がある……」 「それでも、肉体は当に限界を超えている筈だ……!」 澪と共に固唾を飲んで様子を見守っていたアマリリスは、棗がツェーザルに立ち上がらないように警告しているようにも聞こえた。 弱者を守る手段としてそれしかないとは言え、人間を傷つけるには抵抗があるのだろう。願わくは、力など振るわずに解決したいと思っているに違いない。 「でも、それが出来ないから、力を奮って戦っている。……棗さんは、綺麗事だけじゃなくて覚悟を決めた人なんだよ、ね」 「……月詠、棗。あいつ……」 せめて自分達に出来る事は、彼を見守りつつ、援護の機会を見つける事か。アマリリスと澪は二人の様子を注意深く見詰める。 |