屋敷は夕日に赤く染められ、まるで燃えているかのようであった。
 駆け付けた棗が目にしたものは、庭に散らばる瓦礫と崩壊した玄関である。
 そして、役目を果たさなくなった扉から中を覗いてみれば、壁にもたれかかるようにしてぐったりとしている澪と、刀を振り下ろそうとしているツェーザル。更に、その下にいるアマリリスを捉えた。

 考えるより早く、腰に下げた蛇腹剣を抜き放つ。文字通り、刃は蛇のように体をしならせながら、ツェーザルの刃を軌道から弾いた。

「棗さん!」

 棗の存在に逸早く気づいたのはアマリリスだった。彼女は棗の姿を確認すると、目から大粒の涙を零す。

「アマリリス……。ひどい怪我をしたのか?」

 棗は心配そうに顔を歪めた。アマリリスが泣いている原因が怪我の所為だと思ったのだろう。彼女はハッとして、袖で目をごしごしと拭うと、

「ち、違うわよぅ。棗さんが来てくれて、安心したのよぅ!」

腹這いになりながら、芋虫のようにずるりと棗に近づく。ツェーザルの蹴りは人間が放ったとは思えないほど重く、鈍痛がアマリリスの全身を蝕んでいた。

 だが、アマリリスは腹から声を振り絞る。

「こ、この人がボーンコレクターなの! 被害者を気絶させて、血を抜き取って殺して、それから骨を抜くのよぅ! 低級インベーダーの一件も、何か知ってるみたいだし!」

 アマリリスが指さした先には、ツェーザルが居た。棗の登場に驚いたように目を見開いている。
 棗は、突きつけられた事実と予想していたことの一致に苦々しい顔になる。何処かで、それに対して嘘であってほしいと願っている事に、更に表情が険しくなるか。

「ツェーザル……シュトライヒ……」

「棗様……。まさか、棗様の方からお越し下さるなんて、思ってもみませんでした」

 ツェーザルは古き友人にでも話し掛けるかのような柔らかい微笑を浮かべながら、静かに棗に歩み寄る。その場にミスマッチなほど鋭い殺気を、携えた刃に湛えて。

「……アマリリスと来栖澪を傷つけたのは、お前か」

「はい。御二人とも、僕の目的の障害になると思いまして」

 ツェーザルは爽やかな笑顔と共にきっぱりと言い切った。

 次の瞬間、ひゅっと風を切る音が聞こえたかと思うと、蛇腹の刃が飛来する。

「――ッ!」

 ツェーザルは手にしていた斬馬刀を返すと、一振りで蛇腹の刃を弾き返す。身をくねらせて天井へと舞う刃を視線で追おうとした刹那、闇が目の前に現れた。

 否、棗である。

 ゴーグル越しでも分かる。彼の漆黒の双眸には獣のような殺気が宿っていた。ざわっと全身が泡立つのを感じ、戦慄したツェーザルは防御を忘れる。
 間髪を入れず、鳩尾に拳が減り込んだ。いや、捩じり込まれたという方が相応しいかもしれない。
 そのまま貫いてしまうのではないだろうかと錯覚させるほどの打撃に体が持ち上げられたかと思うと、次の瞬間、ツェーザルの体は宙に舞っていた。

 ズゴォォンという重機でも突っ込んだような音をあげながら、ツェーザルの体が壁に打ち付けられる。白く塗り固められた壁には放射状に罅が入り、天井が揺れて粉塵が降り注ぐ。
 辺り一面、白い霧に覆われた。






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