「私を、ここで働かせてくれない!? 魔女としては駄目駄目だけど、コードユーザーとしては一流だよ! 私が居れば、インベーダーなんていちころよぅ!」

「……駄目だ」

 即答する棗に、アマリリスはガクッと肩を落とす。眉尻を情け無いほどに下げた表情は、落胆した気持ちを浮き彫りにしていた。

「な、なんでぇ? 見た所、棗さん一人みたいだし、人は多い方が良いでしょ!」

「子供の遊びじゃない。危険過ぎる」

「むぅぅ! 大人ってそればっかり。私だって、対インベーダーの戦闘技術を学んだんだよ! さっきは……ちょっと油断しちゃったけど」

「…………」

 そう、アマリリスは小さいながらも戦士としての教育も受けて来たのだ。それは、先程の攻撃魔法を見ていれば分る。そして、難易度の高いと言われている飛行技術も申し分が無い。
 経験こそ浅く、未熟なものではある。だが、実力だけを見れば、コードユーザーとしては一人前と言えるだろう。

(だが、経験の浅さは命取りになる。先程の、ヘルハウンドと戦った時も、俺が居なくては……)

 アマリリスはかなり高い位置から落下していた。あのまま地に落ちれば、ただの怪我では済まなかっただろう。しかも、常人よりも瞬発力が高い棗が居たからこそ、受け止められたのだ。

(……彼女は魔女であり、戦士だ。この先、例え一人でも、インベーダーと戦おうとするだろう)

 その時に、彼女の経験の浅さをフォローする人物が居れば良い。彼女が自分自身をフォロー出来れば良い。だが、そのどちらの保証も出来なかった。
 今後の彼女の安全を保証するとするのなら、経験者が彼女に実戦を交えて少しずつ教えていくしかないのだ。

「…………分った」

「え?」

「アルバイト兼見習いとしてならば構わない。高い給料は出せないがな」

「え、ええ? 良いの? 本当に良いの?」

 アマリリスも、まさか了承を得ることが出来ると思っていなかったのだろう。信じられないようなものを見るかのように、目を瞬かせながら何度も問い掛ける。

「気が変わったのならば良い。聞き流してくれ」

「そ、そんなわけないじゃん! よ、棗さんの男前!」

「…………」

 半目になる棗であったが、舞い上がったアマリリスの眼中には映らなかった。アマリリスは「やったー!」と歓声を上げながら両手を振り上げる。

「見習いって事は、色々教えてくれるんだよね?」

「嗚呼。逆に、俺もお前から学ぶ事があろう」

「へっへっへ、何言ってるんですか旦那。私が教える事なんてこれっぽちもありませんって」

 手を揉みながら悪い商人のような表情をするアマリリス。彼女の表情は、本当にころころと変わる。
 そんなアマリリスを見て、棗は思わず顔を綻ばせた。

「あ、棗さんが笑った! クールであんまり笑わない人かと思ったけど、ちゃんと笑うんだね。結構イケメンなんだから、笑ったほうが良いわよぅ」

「…………」

「ほらほら、顔を逸らさない。もっと、笑顔を見せて!」

 無理矢理顔を覗こうとするアマリリスだが、顔を上げられてはどう足掻いても窺い知る事は不可能だった。
 己の低い身長を呪いながらも、意地でも覗き込んでやると飛び跳ねるが、棗は何の前触れも無く踵を返す。虚を突かれたアマリリスは、そのまま玄関の扉へと頭を突っ込んだ。ゴインという鉄板を殴りつけたような音が鈍く響く。

「ひぎゃー! ひ、ひどいわよぅ、棗さん!」

「……俺が悪いのか、今のは」

 棗は眉間を揉みながらノートパソコンを開いた。アルバイトを雇うならば、正式な手続きをしなくては。多少の後悔と、小さき希望への期待を胸にしながら、棗はふと窓の外を見やる。

遠くにはエンブリオプラントが見えた。空は、あの事件は幻だったのではないかと思うほど穏やかである。
 そんな中、眩しい太陽の光を浴びて、施設の屋根はキラキラと光っていた。


 世界は依然としてインベーダーが蔓延ったままで、人々の胸には新たなトラウマまで刻みつけられたが、躓きながらも、少しずつ前に進んでいた。
 コードシステムが完全に一般化されるまであと何年掛かるか分らないが、また、多くの人々が笑って過ごせるようになれば良いと願う。

「アリスが繋いだ希望を絶やさぬためにも、戦わなくてはな……」

 いずれ自分の力が必要でなくなるその時まで。

 何処かから「応援してますからね、棗さん」という声が聞こえたような気がして、棗は深く頷いた。

 太陽の光は闇を纏う棗にも、未熟な少女のアマリリスにも、決意を新たにするエンブリオや密かに暗躍するエニグマにも、誰にも平等に降り注ぐ。
 カオティックワイズマンを封じた時に、アリスが降らせたあの光と同じように。






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