戦闘員が次々と倒されていくという騒ぎは、最上階の社長室にまで届いていた。
 三百六十度の全方位が特殊な硝子で囲われ、シティホライズンを一望出来るという社長室で、一人の女性が複数のモニタを眺めている。
 癖のあるセミロングの黒髪に鮮やかな茶眼を持ったこの女性こそ、現社長エナ=エンブリオであった。年齢は二十二歳と、社長にしては若過ぎる年齢であったが、その目付きには全く隙がない。
 今も鋭い眼光でモニタに映った棗達を観察している。

「ヘビモス・イミテーションがやられるとはな。貴重な実験体を一つ無駄にしたか」

 まるで駒の一つを失っただけと言わんばかりの冷淡な溜め息を一つ漏らし、地下一階を目指す三人に目を眇めた。
 パソコンで戦闘員の位置を確認すると、キーボードに指を滑らせて戦闘員達に次の指示を送る。

「それにしても、『月詠棗』があの時の男だったとは。……これも、因果か」

 エンブリオはソルジャーの名簿が記載されているファイルを開く。
 そこには、棗がエンブリオカンパニーに雇われてからの仕事の履歴は残っているものの、それ以前の経歴に関しては殆ど触れられていなかった。
 丁度、ソルジャーを急募していた時のものなのだろう。本来、エンブリオカンパニーが撮影すべき顔写真も添付されていない。
 後で担当者を指導しなくてはと思いながら、エンブリオはファイルを閉じた。

 モニタの向こうでは、棗達が地下一階の廊下を抜け、研究室の扉前に到達していた。従来の戦闘員はコードユーザーとの戦闘を想定していなかった為、直ぐに倒されてしまったのだろう。だが、それはエンブリオの計算どおりだった。

「――『アリス』。お前を逃がしはしない。我が『コードゼロ』計画のためにも」

 くっと整った唇を笑みで歪めると、エンブリオは静かに席を立つ。
 彼女が向かった先は社長室直通のエレベーターである。
 エンブリオが目指すは地下一階。そこに、全てが集まろうとしていた。






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