棗達と対峙したのは、ずらりと並んだ五人の男である。しかも、全員が戦闘員である事を示す赤の制服を着ていた。

「『アリス』を大人しく渡せ。さもなくば――!」

「如何なさると言うのです?」

 答えたのはエニグマであった。コードユーザー五人を目の前にしているというのに、相変らずの笑みを浮かべている。一方、予期せぬ人物の登場に、戦闘員達は動揺を走らせた。

「な……何者だ! 『アリス』を連れているのは月詠棗だけでは無かったのか……!?」

「構うか! 我々の仕事は『アリス』の回収。相手が誰であろうとやる事に変わりは無い」

 リーダー格の戦闘員がそう叫ぶと、後方に居た四人がエニグマと棗目掛けて手を翳す。
 室内で逃げ場の無いのを良い事に、二人を魔法で攻撃しようというつもりなのだろう。翳された右手に魔力が凝縮される。周囲の気温がぐんと上がり、手の平に炎の塊が生まれた。
 構成こそは単純だが前振りが短い速攻型の炎の術が、二人目掛けて解き放たれんとしたその時、先に動いたのは棗であった。

「撃てぇ!!」

「――させるか!」

 コードシステムが生み出した炎球が放たれたのと、棗の放った呪符が発動したのは、ほぼ同時だった。呪符から生み出された電撃は蜘蛛の巣のように広がり、二人を射止めんとする炎を絡め取る。
 二者の術は、互いにぶつかり合い、削り合う。ぎゅるりと空間を歪めるような音がしたかと思うと、爆風を上げて消滅した。だが、戦闘員らが術の相殺に息を呑む中、間髪を入れずエニグマが印を組む。

「真の炎術とは、こういうものです。受けなさい、裁きの焔を!」

 エニグマの声が高らかに響いたと同時に、印を組んだ右手から炎の矢が生み出される。それは先に放たれた炎球よりも巨大で、眩い白き輝きを放っていた。まるで太陽のようなそれは、長い尾を描いて戦闘員達を包み込む。

「なにぃ!? う、ぐあぁぁぁ!」

「ご安心なさい。我が焔は神様のお力、聖なる焔。火傷の心配は御座いませんよ」

 悶絶する戦闘員達の前で、エニグマは飽くまでも穏和な態度を崩さなかった。
 炎に身を焼かれて次から次へと戦闘員が倒れ伏すも、エニグマの言うとおり、無傷だった。焦げた匂いは一切無く、ただ、そこで『何かとてつもなく強い力』が働いた事だけが分る。

「この術……。まさか、『聖焔(セイクリッドフレイム)』か!」

 倒れた戦闘員が気絶しているのを確認していたエニグマだったが、棗の驚愕を含んだ声に頷きを返す。

「そう。今は失われた、『神様の力を借りる術』に御座います。――さて、早いところ地下へ向かいましょう。警備が厳しいようですが、今となっては関係が御座いませんね」

 苦笑めいた表情を浮かべながら、エニグマは踵を返す。ローブの裾が翻るのを見ながら、棗は返事をするのも忘れて息を呑んだ。

 科学技術が発達した現代では、神への信仰は殆ど忘れ去られていた。
 かなり昔に、神の力を借りた術――神術というものが存在していたようだが、信仰を忘れた現代人が使いこなす事は不可能と言っても過言ではない。しかも、術者自体が希少となってしまった今、神術は失われた術となっていたのだ。
 しかし、それを行使する者が居たのである。今、棗の目の前で。

(エンシェントに神術か……。『謎めいた者(エニグマ)』の名の通り、一筋縄ではいかなそうだな……)

 本当に信頼していいのだろうか。そんな疑問が棗の胸に過ぎる。だが、謎の部分が多いのはアリスだって同じ事である。

「大丈夫か? 行くぞ」

 ダンボールの影に隠れて様子を伺っていたアリスに声をかけると、彼女はぱっと安堵の表情を浮かべて、棗に駆け寄ってくる。その表情はただの無力な少女の無邪気な顔そのものであった。

(それに、隠し事をしているというのなら、俺もそうか)

 棗は思わず自嘲的な笑みを零す。






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