「ソルジャーAランク、月詠棗様。今回の件の報酬は指定の口座に振り込みますので、後日ご確認ください」

 受付嬢はマニュアル通りの台詞と共に、ICカードを棗に渡す。だが、彼女の笑顔がアリスに向けられた瞬間、複雑な表情となった。

「何か問題が?」

「はっ……! あの、志藤アキツ様なのですが……」

 棗の問いかけに、受付嬢は困惑気味に目を伏せる。何かを隠している表情だ。
 棗が訝しげに思い、少し離れた所で遣り取りを見ていたアリスを引き寄せようとしたその時、

「――『アリス』さんですね? 貴方はこちらに来て頂けませんか?」

 影が二人の周りを囲った。

「え!? 何っ!?」

 アリスが目を白黒させて裏返った声を上げるのも無理はない。屈強な体格の警備員数人が、壁となって二人を取り囲んでいるのだから。棗は動揺する素振りも見せず、ただ、ゴーグル越しに警備員の一人をねめつけた。

「……この娘に何の用だ?」

「答える義務はありません。彼女の身柄はエンブリオカンパニーが預かります。――お下がりください」

 入り口へ向けた視線が、暗に帰れと棗に言っていた。
 いきなり集まってきた警備員に驚いてか、周囲の人間の視線が棗達に集中する。ロビーに緊張が走った。
 警備員がアリスに手を伸ばすも、アリスは怯えたような顔で一歩下がる。

「さあ、我々と一緒に来て下さい。『お父様』もそちらにいらっしゃいますよ」

 丁寧であるが、ドスが利いた声だった。来る事を強要するかのような雰囲気が、アリスのか細い体に槍のように突き刺さる。

「……うそ」

「嘘ではありません。――さあ、早く!」

「嘘!!」

 警備員の一人が腕に手を伸ばして来ようとしたその時、アリスは弾かれたように走り出した。警備員が怯んだ隙に間を割って輪から逃れれば、己の勘が導く方へと一目散に向かう。

「くっ、捕えろ! 早く!」

 リーダー格の警備員が声を上げれば、まるでプログラムされているかのように一斉にアリスの後ろ姿を追う。アリスは搭乗している人間を押しのけ、エスカレーターで上階へと向かっていた。

「駄目……。あの人達に捕まっては、駄目……!」

 自分に言い聞かせながらひた走るアリス。だが、エスカレーターを上ってくる重々しい足音は既に間近に迫って来ていた。

 警備員達とは、あとどれくらい距離があるのだろうと、そっと背後の様子を盗み見しようとしたその時である。アリスの襟首に、警備員の太い腕が伸びていたのは。

「い……!」

 嫌だ!

 そう叫ぼうとした瞬間、バチィという耳障りな音と共に両者の間に火花が散った。「ぐがぁ!」と短い悲鳴を上げて腕を抑える警備員。その足元には、棗の呪符が刺さっていた。
 アリスの表情が驚愕に包まれた瞬間、彼女の頭上に影が舞う。誰よりも先にアリスに辿り着いたのは、棗であった。

「棗さん!」

 歓喜に満ちた叫び声に、棗は無言で頷き返す。闇色のコートをひらりと翻し、足場にしていたエスカレーターのベルトから降りれば、アリスの方へと手を伸ばす。

 アリスは躊躇う事無く、棗の手を取った。





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